大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和45年(く)22号 決定

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

〈前略〉

一  刑事訴訟法(以下、法という)六〇条二項、八九条三号が憲法三一条、三七条に違反するとの所論および被告人に常習性を認めた原決定は不当であるとの所論について

しかしながら、本来勾留更新決定の当否は、個々勾留更新決定に対する上訴(抗告または準抗告)手続で争うべきものであつて、勾留更新決定の不当を理由として勾留の取消を求めることは、原則として許されない。すなわち、勾留取消の裁判は、勾留の裁判または勾留更新決定の裁判をした裁判所または裁判官(以下、たんに原裁判所という。)と同一審級の裁判所がこれを行なうものであるから、原則として、原裁判時以降において、新たに、勾留の継続を不当ならしめる特段の事情の存在するに至つたとき(ただし、新たに事情が変化した場合のほか、原裁判当時判明していなかつた重大な事実が新たに発見された旨の疎明があつた場合を含むと解する。)にのみ、これを行なうことができると解するのが相当であり(法八七条参照)、裁判所の被告人に対する後見的機能に鑑み、右原則の例外を認めるとしても、それは、原裁判所の判断が明らかに失当であると認められるような場合に限るべきである。もしも右見解に反し右のような要件の存しない場合にも、すべて勾留または勾留更新の裁判の当否を、それに対する上訴手続のほか、勾留取消請求手続によつても争うことができると解するのは、勾留または勾留更新の裁判に対し、独立して上訴することを許した法(四二〇条二項)の趣旨に反し、上訴制度を混乱させるものであつて相当でない。ところで、本件につきこれを見るに、所論の主張するところは、各勾留更新の裁判当時と同一の事情を前提として、たんに右各更新の裁判の違法不当を主張するに止まり、しかも、この点に関する原裁判所の判断が明らかに失当であるとは認められないから、右のような理由をもつて、勾留の裁判を取り消すことは許されないと解される。そうすると、所論指摘の各法条の違憲性および被告人に対し常習性を認めた原各決定の当否に対する最終的な判断は、しばらくこれを措くとしても、所論が不適法であることは明らかである。

二  本件各勾留が不当に長くなつたとの所論について

所論は、本件各勾留は、すでに不当に長くなつているからこれを取り消すべきであるのに、その取消請求を棄却した原決定は失当である、というのである。よつて審按するに、一件記録により認められる被告人の身柄拘束の状況は、原決定の理由二(1)項記載のとおりであり、これによれば、被告人が昭和四四年一〇月一日以来第一の勾留状により勾留され、さらに同四五年二月二日以降第二の勾留状により併せて勾留され、右各勾留による身柄拘束が、すでに相当長期間にわたつていることが明らかであるが、本件各事案の罪質・態様、捜査および審判の難易、訴訟の進行状況等諸般の事情(この点は、原決定理由二(3)項記載のとおりである。)を総合して考察すれば、前記各勾留による拘禁が不当に長くなつたと考えることのできないことは原決定が詳細に説示するとおりである。所論は独自の見解であつて、とうてい採用できない。

されば、本件各勾留取消請求を棄却した原決定は相当であり、本件各抗告は失当であるから、刑事訴訟法四二六条一項によりいずれもこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。(中西孝 小川正澄 木谷明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例